すっかり空は紺色に染まり、頭上の桜はぼんやりと白く浮かび上がっている。空気はひんやりと冷え込み始め、リヴァイはぶる、と小さく身体を震わせた。隣に座っていた男がそれに気づき、声をかける。
「だいぶ冷えてきましたねぇ。そろそろ移動した方がいいですかね」
「そうだな……」
 まだまだ周囲では賑やかに談笑が続いている。時計を見ようとしたリヴァイの肩に、後ろからふわりとあたたかな上着がかけられた。
「……エレン」
「リヴァイさん、大丈夫? そろそろ寒いでしょ、その格好じゃ」
 エレンがにっこり笑って言う。
「エレンくん、やさしい〜!!!」
 すこし酔っているらしい女子社員たちが、その様子を見てきゃあきゃあと盛り上がりを見せる。エレンのいない間に、すっかり彼のファンクラブができてしまったようだった。
「いいなぁ、アッカーマンさん。私も後ろからふわっ……てされたい」
「王子様だもんこんなの」
 リヴァイが苦笑しながら「だそうだ」とエレンに言う。
「悪かった。どうしたんだ、これ」
「さっき抜けて、家に一度戻って持ってきました。リヴァイさん風邪ひいちゃうかなって」
 エレンの言葉を聞き、再び黄色い声が上がる。困った顔で笑うエレンを見て、リヴァイも立ち上がった。
「そろそろ失礼する」
 残念がる彼らにリヴァイは二次会代の資金を渡し、靴を履こうとしてすこしよろめいた。エレンがリヴァイの腕を取って支える。リヴァイは同僚たちに声をかけ、「行こう」とエレンの背中を押した。

「……それで俺、五回連続でストライク出したんです。昔家族でやったくらいで、あんまりボーリングやったことなかったけど、意外とうまかったみたい」
「そうか」
「でもリヴァイさんはオレよりもっとスコア出そう。駅のすぐそばだし、今度一緒にやってみません?」
「そうだな」
「あいつら、これからカラオケ行くって言ってました。カラオケは嫌で、オレ」
「……エレン」
「リヴァイさん?」
 駅を越え、人通りの多い桜並木を抜け、静かな住宅街に入ったところだった。リヴァイは足を止め、それに合わせてエレンも立ち止まった。
「……今日は、悪かった」
「そ、んなこと、別に」
「せっかくふたりで花見の予定だったのに」
 リヴァイは自分から手を伸ばし、そろりとエレンの指を掴む。エレンはその指が冷え切っていることに気づき、慌てて両手でぎゅうとリヴァイの手を包み込んだ。
「大丈夫です、……ちょっと寂しくなっちゃったのも本当だけど。でも、リヴァイさんの職場の顔、見れたのも嬉しかったし」
 リヴァイは黙って俯いている。頬がすこし赤い。
「……リヴァイさん?」
 呼ばれて見上げたリヴァイの目の縁は、頬と同様にほんのりと赤かった。いつも涼しげな目元が柔らかに緩んでいて、視線がどことなくぽわんと甘い。
「あれ、……リヴァイさん、もしかして」
 リヴァイは空いている手をエレンの手の上に重ねる。夕方、人気の少なくなった道に入ったからと言って、普段のリヴァイがとるような行動ではなかった。急に心臓がドキドキと脈打ち始め、エレンは咳払いをする。
「リヴァイさん、……ちょっと酔っ払ってます?」
 短い沈黙が降りた後、リヴァイはこくりと頷いた。
「あいつらがいるときは、全然酔わないんだ。でも、お前が迎えに来て……お前の顔を見たら、……安心して」
 リヴァイはエレンを下から見上げる。赤く潤んだくちびるから出た言葉は、いつもよりもゆっくりですこし呂律が怪しい。ふうと息を吐くと、エレンにもたれかかって体重をかけた。エレンは慌ててリヴァイの肩に手を回して支える。
「えっ待って、リヴァイさん、かわい……」
「いいから、早く連れて帰れ……」
「……はいはい」
 甘えるようにもたれかかるリヴァイを支え、エレンは愛おしさと優越感で破裂させそうな心を抑えて歩き始める。なんという殺し文句だろう。酒に強いと自負するリヴァイが、自分の前でだけ安心して警戒を解き、ふにゃふにゃになって身体を預けているのだ。清潔に刈り上げられたうなじが、ピンク色に染まっていた。くちびるを押し当てたい気持ちを懸命に堪えながら、この姿を世界中に見せつけてやりたい一方で、誰にも見せたくないとエレンは思う。この矛盾した気持ちにデジャヴを感じ、何だろうと考えているうちにマンションの下まで帰り着いた。エレベーターに乗り込み、エレンは一息をつく。
「はいリヴァイさん、おうちもうすぐですからねー」
「ん……」
 リヴァイはほとんど閉じられた目でエレンを見ると、そのまま腕をエレンの身体に回し、ぎゅうと抱きついた。
「えっ、リヴァイさん、そんな」
「エレン……」
「……待って、待って、あとちょっとで着くから……っ」
 エレンはすりすりと自分の胸に擦り付けられる頭を撫でながら、慌ててエレベーターを降りる。リヴァイが一時もエレンから離れるのが嫌だというようにしがみつくので、抱えるようにして部屋にたどり着いた。
「も〜リヴァイさんてば……、ん」
 扉に鍵をおろし、リヴァイを玄関に座らせた途端、彼にぐいと服を引っ張られてくちびるを奪われる。
「ん、ぅ、……はぁ、リヴァイさん、ほら……まずは靴脱いで……」
「エレン、……エレン、ん」
「……ん、どこにも行かないから……」
 ちゅ、ちゅ、とついばむように繰り返されるキスを受けながら、エレンは器用にリヴァイの靴や上着を脱がしてやる。そのまま膝の裏に腕を回し、よいしょ、と抱き上げる。
「抱っこ、本日二回目。……リヴァイさん、このまま着替えて寝る? シャワー浴びたい?」
「……シャワー」
 呻くような声の後、絞り出された言葉に「ですよね」と笑い、エレンはリヴァイを浴室まで連れていく。
「……ひとりで、入れる?」
 リヴァイは俯いて、ふるふると頭を左右に振る。仕方ない。エレンは丁寧にリヴァイの着ていたカーディガンを脱がせた。ついさっきまで、部下の前で頼れる上司として振る舞っていたその衣服。彼らは自分たちの憧れの上司が、親戚だという年下の男にこんな風に甘えてしなだれかかっていることなど想像もできないだろう。シャツの襟首から覗く素肌はアルコールのせいかうっすらとピンク色に染まっていて、エレンは自分の下半身にぎゅんと血液が集まり出したことを感じた。まずいまずい、とすこし身体を離し、できるだけ作業じみた動きでシャツのボタンを外していく。今朝もしてしまったのに、一日二回はまずいだろう。朝は挿れなかったとはいえ──そう考えていると突然、リヴァイがエレンをぐいと押しやった。
「……悪い、……ひとりで、入れる」
「え、でも」
「大丈夫だ」
「リヴァイさん……?」
そのままぐいぐいと洗面所から閉め出され、鼻先で扉が閉められる。何かまずかっただろうか。まさか、勃ってるのに気付かれた? エレンは呆然と、閉められた扉をしばしの間見つめた。

 リヴァイと入れ替わりでシャワーを浴び、リビングに戻るとそこにはもう彼の姿はなかった。寝室の扉をゆっくりと開けると、廊下の光が中に差し込み、こんもりとしたふくらみを照らし出す。エレンはふくらみの隣に腰をかけ、布団から見える小さな頭をそっと撫でた。ぴくりと反応が返って、彼が眠っているわけではないことを確認する。
「リヴァイさん」
 すこしの沈黙の後、掠れた声が返ってきた。
「……さっきは、悪かった。忘れてくれ」
「さっき? さっきって?」
「あんな風に、お前に甘えて。お前が来て、……すこし酔いがまわった。楽しかったんだ」
「な、」
 エレンは慌てたようにぎゅっとリヴァイを布団ごと抱きしめ、耳元で言った。
「何言ってるんですか、嬉しかったに決まってるじゃないですか。あんな風に素直に甘えてくれるリヴァイさん、なかなか見れないから……オレ」
 ──言うか、言わないか。
 昨日から頭にあったことが口から滑り出そうになり、エレンは瞬時に考える。同時に、先程の頑なな態度で洗面所から自分を押し出したリヴァイを思い出す。リヴァイはどう思っているのだろうか。セックスについて。
「……今すぐ抱きたいって思ったけど、頑張って我慢したんですよ」
 そうしてすこし笑い、冗談のトーンに乗せて、口に出すことにした。軽い口調とは裏腹に、顔の見えないリヴァイの反応にわずかに緊張しながら。するとリヴァイはバッと上半身を起こし、驚いた顔でエレンを見つめた。
「え、」
「……我慢、してたのか」
 リヴァイの心底驚いた、という顔を見て、エレンは一つの考えが頭に浮かぶ。一瞬躊躇したものの、思ったことをそのまま口に出すことにした。別に外れていたっていい。恥をかくなら、年下のオレであるべきだ。
「ねぇリヴァイさん、……間違ってたらごめんなさい」
 一度真正面から自分を見つめた瞳は、また下に向けて逸らされてしまっている。その視線を拾い上げるように、エレンはリヴァイの顔を下から見上げた。
「もしかして、オレに遠慮してたりする?」
 リヴァイの返事はない。
「……こっち見て」
 動揺を伝える視線が遠慮がちに合わされ、エレンは自分もベッドの中に滑り込んでそのままきつくリヴァイを抱きしめた。力を緩めてもう一度リヴァイの顔を覗き込み、互いに吸い寄せられるようにキスをする。そうして心の中で、エレンは自分が間違っていなかったことを確信し、キスをしながら彼の下半身に手を伸ばした。
「あ、」
 リヴァイは慌てたように身体を捩り、ゆるく反応している下半身を隠そうとする。 「……悪い、これは多分、生理的な……」
「リヴァイさん」
 エレンはリヴァイの言葉を遮り、もう一度強く彼を抱きしめた。
「お願い……、今はまだ酔っ払ってるってことにしましょう。だから、大丈夫。素直な気持ちを教えて」
 ほんのすこしの隙間をふたりの間に作り、エレンは重ねて問いかける。
「リヴァイさん、……オレと、したい?」
 リヴァイは首から耳まで真っ赤になり、口を開けたり閉じたりしている。エレンはその様子を見て思わず吹き出して、小さな子どもに語りかけるような口調でゆっくりと話し始めた。
「……オレは、したい。ずっとリヴァイさんのこと考えてるんです。あまりにもガキっぽくて恥ずかしいけど。いつだってリヴァイさんがかっこいいと思ってるし、かわいいとも思ってるのに、……その上初めてセックスしてからは、リヴァイさんのエロい表情が頭から離れなくて」
 エレンはチラリとリヴァイの表情を確認する。彼は顔を真っ赤にさせたまま、いっそ不機嫌に見えるような表情で黙っている。
「今日会った会社の人たちに対して、リヴァイさんのそんな表情知ってるのはオレだけだって優越感でいっぱいになったけど、……でもお酒飲んでるリヴァイさんを見て、やっぱりオレは子どもなんだなって悔しくもなったりして。……何言ってるんだろ、話がずれてってますね。とにかく、オレ」
 エレンはふうと息を吐いて、リヴァイを見つめて続けた。
「とにかくオレ、リヴァイさんとしたい。すげぇ我慢してます、この一週間ずっと。でもリヴァイさんに無理させたいわけじゃなくて──」
 言葉を遮るようにリヴァイの両腕がきつくエレンの背を抱き、その強さに思わずエレンの口から声が漏れる。
「エレン」
「ん、」
「エレン、俺は今、酔っている」
「はい」
「エレン、……したい」
「……うん」
「ずっとお前のことが、……っそういう時のお前が、頭から離れなくて、自分が嫌だった。いつも期待してしまって、今朝も……」
「今朝も?」
 深々と吐き出されたため息のあと、小さな舌打ちが響き、意を決したようにリヴァイは言った。
「……挿れて、くれるのかと」
 今度はエレンが顔を真っ赤にし、口をパクパク開閉させる番だった。
「もう!」
 エレンはリヴァイの背中をシーツに押し付け、今彼の口から出た言葉を逃さないかのようにキスをすると、すぐにリヴァイは薄く口を開いてエレンの舌を迎え入れた。積極的に自分の舌に絡みつこうとするリヴァイの舌の動きに、エレンは一気に興奮が高まるのを感じる。鼻から抜ける声が、いつもより高い。リヴァイの両手がエレンの背中に回り、上半身を浮かせるようにして身体を擦り付けられる。その様子があまりにもかわいくていじらしくて、リヴァイの両脚を自分の身体で割り、体重をかけてふたりの間の隙間を埋めた。
「ん、ふ……ぅっ、」
 腹部に当たるリヴァイのペニスが、硬く主張している。十分に身体は密着しているのに、布一枚の隙間が耐えがたいといった様子でリヴァイの手がTシャツの裾から差し入れられ、素肌に直接しがみつくように抱きしめられた。エレンは愛おしさと爆発しそうな欲望で心臓が絞られるように痛むのを感じながら、リヴァイの口内に更に侵入する。すると苦しそうな声を上げながらも、リヴァイは両脚でエレンの身体をきつく挟み、下半身を擦り付けるように動かした。エレンは感嘆に近い気持ちで考える。──本当に期待してる。オレを求めてる。
「……オレたち、対話が足りてませんでしたね」
 ちゅっと音を立ててくちびるを離すと、真っ赤な顔でとろとろに蕩けた表情を浮かべるリヴァイを見下ろす。くちびるは濡れて光っていて、口の端から唾液がこぼれ落ちていた。それを舌で拭いながら、エレンはぷちぷちと迷いなくリヴァイのパジャマのボタンを外していく。ズボンと下着を引き抜く時、恥ずかしそうに顔を隠すリヴァイの両手をやさしく退けた。
「こんなに一緒にいるのに、ちゃんと自分の気持ち話さなかった。オレすげぇ我慢しましたもん、今朝。めちゃくちゃ挿れたかったのに……」
「もう、いいから……早く、」
「……うん、今夜はいっぱいしましょうね」
 耳の縁から首すじ、胸もととキスを降らせると、それだけでリヴァイは小さな声を上げた。エレンはすこし考えてから、鎖骨の下を強く吸い上げる。
「あっ、お、い……っ」
「……痛かった?」
 リヴァイはふるふると首を横に振る。
「ここなら洋服から見えないから」
「……好きにしろ……」
 そのままエレンはリヴァイの脇を撫で、つんと尖った乳首を舌で突く。自分の身体に当たるペニスがその度にぴくぴくと反応し、先端から液体をこぼしている。
「……かわいい……」
「ぁっ、あん、……ん、ぁっ」
 指先で乳首をこねながら、早く早くと擦り付けられるペニスに、エレンはやさしくキスをする。竿を舐め、先端から口内へ迎え入れると、リヴァイは身体をのけぞらせて喘ぎながらエレンの髪の毛を掴んだ。
「エレ、そんな、とこ……っ」
 大丈夫だから、という意を伝えるように身体を撫で、同時に乳首をつねり上げると、今度は逆に頭を抑えてしがみつくようにしながら身体を震わせた。全体を吸い上げながら舌でしごいてやると、甲高い声が上がる。
「は、だめ、……ぁっ、ん、ダメ、だ、……もっ」
 あ、イキそうになってる。エレンはそろりと震えるペニスを口から出し、制止の声を上げておきながらも、泣きそうな顔で自分を見つめるリヴァイに微笑みかける。
「あ……何で、……っ」
「ここ」
 ぬるりと指を滑らせ、リヴァイの後ろ穴をやさしく撫でると、「ぁっ」と小さな声が上がった。
「今朝、さみしくさせてごめんね」
 そのままそろそろと撫でてやると、リヴァイは腰を突き出しながら、泣きそうな声で喘ぐ。そのまま指先を滑らせて睾丸を撫でると、びくりと身体を震わせた。
「いや、だ、あっ……エレン、ぁ、ん」
「ちょっと待ってね」
 そう言って身体を起こし、自分も背中からガバリと引き抜くようにTシャツを脱ぐ。ベッドの脇にそれをぽいと投げ捨て、サイドテーブルの引き出しからごそごそとローションを取り出すと、「いやだ、早く」とうわ言のように繰り返すリヴァイにキスをした。
「ゆび、挿れますね」
「んっ、ぁっ……あ、は、ぁ」
 一週間ぶりのリヴァイの中はすこしきつかったが、たった一本の指の刺激でも限界まで高まった身体は悦びに震えている。ぐちゅぐちゅとかき回すように中を撫でると、シーツをきつく掴みながら必死に喘いだ。
「エレン、ぁっ、そこ……っ」
「ここ……?」
「んっ、そこ、……あ、あっ」
 指を増やして気持ちのいい場所をぐっぐっと押してやり、ゆらゆらと勃ち上がっているペニスにもう一度舌を這わせる。途端にリヴァイは痙攣したように大きく身体を震わせ、引きつった声を小さくあげて射精をした。思いの外早い反応に驚きながら、汚れたペニスを舐めてやると、リヴァイは弱々しくエレンの頭を押し除けた。
「やめ、ろ……汚い、」
「汚くないですよ。かわいい」
「今、……ったばかり、だから……」
「うん……、でもオレは、そろそろ限界なんだけど」
 ちゅ、とキスのような音を立てて、エレンのペニスがリヴァイの潤んだ穴にあてがわれる。その刺激だけでびくびくとリヴァイは身体を震わせる。
「リヴァイさん、……なか、入っていい?」
 汗で濡れて張り付く髪を片手でかきあげ、エレンは問いかける。血管の浮いた大きなそれの存在感とは裏腹に、ぷちゅりとかわいらしい音を立てて先端が潜り込む。
「ぁっ……」
「早く入りたい。リヴァイさんのここ……」
「も、挿れてる、だろ……っ」
「ん、でももう一回聞きたい。さっきの」
「さっきの……?」
「挿れてほしい、って」
「ひ、ぁ……っ」
 ほんのすこし潜り込んだ先端を、腰を引いて抜き、またはめる。つぷつぷとした音に合わせ、リヴァイがぶるぶると震えて喘ぐ。
「い、やだ、……ぁっ、ああっ」
「お願い。オレ、早く挿れたい……」
「ぁ、ぁ、っ、も、……早く、挿れて……っ」
「っ、リヴァイさん……っ」
 好き、リヴァイさん、好き、と繰り返しながら、きつく抱きしめてずぶずぶとリヴァイの中に侵入していく。背中に回ったリヴァイの指が、爪を立ててエレンの背中にしがみつく。
「はぁっ、あ、あっ……ぁぁっ」
「すげ、……気持ち、っ」
 奥深くに突き込んでやりたい気持ちをぐっと堪え、エレンはリヴァイの中を浅く突く。その度にリヴァイの甘い声が耳元に注ぎ込まれ、その熱が脳を溶かしていくようだった。気持ちいい。互いに名前を呼び合い、無意識にくちびるを重ねて、舌を絡ませ合う。これ以上ないくらいに身体を密着させ、きつく抱きしめ合うと、そのままエレンは身体を起こしてリヴァイを膝に抱え上げた。下から突き上げると急に挿入が深くなり、リヴァイは必死にエレンにしがみつく。
「エレン……、はぁ、あっ、!……エレ、っ」
「リヴァイさん……っ」
 首に縋り、身体を擦り付け、蕩けそうな声で自分の名前を呼びながら喘ぐリヴァイの姿に、エレンは急激に射精欲が高まっていくのを感じる。思わず深く強くリヴァイの中にペニスを突き込むと、同じように彼も絶頂を迎えそうなのだろう、高い声で喘ぎながら自分から腰を動かし始めた。ぼんやりとした頭の中で、急に今日の帰宅時、自分とふたりきりになった途端に酔いを見せたリヴァイを思い出す。世界中に見せびらかしたいくらいかわいかった一方で、絶対に誰にも見せたくないくらいかわいかった。その矛盾に感じたデジャヴを、はっきりと思い出す。今自分の膝の上でとろとろに溶けて喘ぎ、ふやけているリヴァイ。世界で一番かわいい恋人。彼のこんな姿を見られないなんて、世界は可哀想だ。
「ぁ、っエレン、もう、イく……っ」
「ん、っオレ、も……っ」
あ、ゴムしてねぇ。直前に気づいて慌てて身体を離そうとしたエレンを、見透かしていたようにリヴァイは脚で挟みこみ、注ぎ込まれる熱を自分の中へと受け入れた。

 それから数時間、後から思い出してふたりで呆れて笑うほど、何度も何度も身体を重ねてベッドを軋ませた。前から、後ろから、上下を入れ替えて、だき潰すように重なって。そうして疲れ果てて並んでベッドに倒れ込み、荒い息を整えながら見つめ合った。
「……満足したか?」
「……リヴァイさんこそ」
 ふっと息を吐くようにリヴァイは笑う。
「お前よく、今まで一回で終わらせられたな」
「だから、すごい我慢してたんですってば。褒めて」
 えらかったな、とリヴァイはエレンの乱れた髪を撫で、キスを要求するくちびるをぺろりと舐めてやった。エレンはぴくりと身体を震わせる。
「んー、……でもまだ、できそう……」
「おい、俺はもう限界だぞ……」
 今度はエレンが笑い、すこし身体を起こして時計を見た。
「わ、もうすぐ12時。さすがに腹減ったな。リヴァイさんは……」
そう言って髪を片手でかき上げながらリヴァイを見下ろし、自分を見つめるその視線に気づいて小さく笑った。
「……どうぞ。いくらでも見て。リヴァイさんの大好きな身体」
「すごい自信だな……」
「だってわかりますもん、リヴァイさんがオレの身体好きなの」
 リヴァイは指先を滑らせて、エレンのたくましい筋肉の一つ一つを撫でていく。
「……好きだ」
「ん、オレも、めちゃくちゃ好き……」
「エレン……」
 ぐいとリヴァイに身体を引き寄せられ、エレンは再びリヴァイの隣に横たわる。そのまま覆いかぶさるようにして、リヴァイはエレンの腹筋にくちびるを押し付けた。
「あ、……リヴァイさん」
 ちゅ、ちゅ、とキスをしながら筋肉の境目に舌を這わせ、すこしずつリヴァイの舌は下へと降りていく。臍へと舌をねじ込まれ、リヴァイの髪に指を絡めながら、エレンはぴくぴくと腹筋を震わせる。いつの間にか期待でそそり立った熱いものが、リヴァイの頬を押し上げた。
「さすが、若いな」
「そんな風にキスされたら勃つに決まってるでしょ」
 つんと指でペニスをつつかれて、エレンは頬を赤らめながら反論した。リヴァイは笑って、つるつると突っ張った亀頭にキスをする。
「んっ……」
「エレン、……好きだ……」
「リヴァイさん、……っ」
 一気に口の中へ押し込みたい気持ちを堪えて頭を撫でると、リヴァイは急に顔を上げてエレンを見た。
「腹減ったんだろ。なんか食うか」
「……え、今……?」
「今」
 リヴァイはごそごそとベッドの周囲を探り始め、拾い上げた衣服をエレンに向かって放る。それを受け取りながら、不満気な顔でエレンは言った。
「オレ、こんななんですけど……」
「……あとでな」
 てきぱきとパジャマを身につけたリヴァイが、にやりと笑ってエレンを見る。
「飯食ったらだ。……俺もまだ、できる」
「……リッ」
「それがおさまったらキッチンに来い」
 そのままさっさと寝室を出ていくタフな背中を見つめ、エレンは「それ」を意識しながらもう一度ベッドに倒れ込む。さっきまでのふやけたリヴァイを思い出し、このギャップがなぁ、とたまらずぼやいた。明日も休みだ、夜はまだ長い。リヴァイがお湯を沸かし始める音が聞こえ、胃がきゅるきゅると音を立てた。




・・・



「お前、あんまり我慢するな。……俺も、しないようにするから」
「! ……そしたら、もう一回、いい……?」




世界で一番かわいい恋人(2021.11.19-2021.12.22)