まぶた越しに柔らかなクリーム色の陽の光が感じられて、リヴァイはうっそりと目を覚ました。布団の中があたたかくて心地いい。脚をつっぱって伸びをし、ごろりと寝返りを打つと、目の前にすうすうと寝息を立てるエレンの穏やかな寝顔があった。すこし伸びた髪がエレンの目にかかっていて、リヴァイはそれをそっと払いのけてやる。うっとおしいから切れ、とついつい言ってしまうものの、エレンの端正な顔立ちに長髪はよく似合っていた。大きな瞳が今は長い睫毛に縁取られたまぶたで隠されていて、リヴァイはしげしげとエレンの顔を眺めた。いつも瞳にばかり視線が奪われてしまい、なかなかこんな風にエレンの顔を眺めることはできないのだ。
 ──いい男だ。
 リヴァイはエレンの頬の線をそっと指先で撫で、満足のため息を漏らした。そのまま顎へと指先を滑らせ、じょりじょりとした髭の感触を確かめる。ずいぶん男臭くなったものだ。リヴァイは自分のすべすべとした顎を撫でてみて複雑な気持ちになりながら、もぞもぞと自分からエレンの腕の中へ潜り込む。背中へ腕を回し、頬をエレンの胸にぴたりとつける。ふんわりとエレンの匂いに包まれ、聞こえる穏やかな心音は心地よく、リヴァイはまた瞳を閉じた。一方のエレンは「ん……」と小さな声を出し、ほとんど空いていない目をふにゃりと細めてリヴァイを抱きしめた。
「おはよ、リヴァイさん……」
「……おはよう」
「ん〜」
 エレンはリヴァイをぎゅうと抱きしめながら伸びをして、ふうと脱力した。
「かわいい、リヴァイさん。抱っこされにきたの?」
 エレンに抱きすくめられると、首すじに髭が当たってくすぐったかった。リヴァイが笑いながら「やめろ」と言うと、エレンはさらに強く髭を押し当てる。リヴァイはなんとはなしに、背中に回した手をスウェットの裾から入れ、エレンの背中を直接撫でてみた。
「ひゃっ」
「……身体、分厚くなったな」
「鍛えてますから、一応。……悪くない?」
「……悪くない」
 エレンが真似をして、リヴァイのパジャマの裾から手を差し込む。背筋をなぞるように指先で何度か撫で、腰の上のあたりを確かめるように軽く押した。こんな朝っぱらから、と思う一方で、エレンはそんなつもりで触れているわけではないかもしれないとも思い、リヴァイは努めて平静を装う。しかし生理現象でゆるく勃ち上がっていたエレンのペニスが次第にぐぐぐと硬度を増し、自分の下半身をぐいぐいと押し上げるので思わず小さな声が出てしまう。昨夜は見ないふりをして眠りにつかせた身体の熱が、思い出したように身体中をめぐり始めた。
「……リヴァイさん。昨日、遅くなっちゃってすみませんでした」
「……気にするな。これからは、そういう日が、増えるだろうから……っ」
 エレンのすっかり勃ち上がった硬いペニスでつつかれて、自分のものにもみるみる熱が集まってくる。背中に回されていたエレンの指先が、下着と肌の間に差し込まれ、そのままそっと後ろ穴に当てがわれた。それだけで心臓がどくどくと音を立て、まだ行為に慣れていないはずのその場所がひくりと震えるのが自分でもわかった。穴の周りをやさしく撫でられるのがくすぐったくて気持ちよくて、リヴァイは逃げるように身体をよじりながらも、エレンに身体を擦り付ける。
「エレン……」
「……ん」
 エレンの優しい声音が嬉しくて、自分に押し当てられているエレンのペニスにそっと手を這わせてみる。その大きさにもまだ慣れない。全体を撫でるように布越しにさすると、エレンは息を飲んでぴくぴくと身体を揺らした。
「リヴァイさん……気持ちい……」
 エレンはすこし身体を離し、目を合わせると、吸い付くようにリヴァイにキスをした。今日初めてのキス。すこし乾燥したくちびるの感触も、ちろちろと舐められる舌の熱さも気持ちよくて、リヴァイはそれを伝えるようにエレンのペニスを撫で続ける。苦しそうに熱い息を吐くエレン自身の色っぽさとは対照的に、彼のペニスは撫でられようと頭を手のひらに擦り付ける小動物のような動きをする。その様子がかわいくて、リヴァイは心の中でほのぼの笑った。
「んっ、ちょっともう……限界、」
 エレンははぁと熱い息を吐き出し、スウェットと下着を同時に下げる。びんと勢いよく飛び出した性器は先ほど想像した動物のようなかわいらしさは持ち合わせておらず、リヴァイは息を飲んでそれを見下ろした。
 ──これがいつも、俺の中に。
 それは恐怖でもあり、感嘆でもあった。直接触れるとそれは熱く震えている。エレンはリヴァイの手の上から自分の手を重ね、ぐっと強く握り込ませた。そしてリヴァイのパジャマのズボンも下げさせ、下着越しに彼のペニスにやさしく触れた。声もなくリヴァイが深く息を吸い込むと、エレンは小さく笑ってキスをした。
「リヴァイさん見て……、ここ、色変わっちゃってる」
 グレーの下着は滲み出たもので黒く変色しており、エレンがやさしく叩くようにすると、微かにぴちゃぴちゃと水音がした。リヴァイは思わずエレンの腕をきつく握りしめてしがみつく。
「ぁっ、エレ、ん……っ」
「……ん、痛くない?」
 リヴァイが目をきつく閉じてこくこくと頷くのを確認すると、エレンはリヴァイの下着を下ろし、先端の滑りを利用して全体をぬるぬると扱き始める。言葉にならない自分の甘い声と、ぬちゃぬちゃと聞こえる水音に煽られながら、リヴァイは思わず腰をエレンのものに擦り付ける。
「エレン、……ぁっ、エレ……、」
「リヴァイさん、……っ」
 エレンは片手でリヴァイの背中を抱き、もう一方の手でふたりのペニスを合わせて握る。熱くて硬いエレンのペニスがごりごりと擦り付けられ、リヴァイはカクカクと腰が動いてしまうのを止められなかった。ふたり分の先走りはエレンにしごかれ泡立ち、そのぬるぬるとした感触は恐ろしいほど気持ちがよかった。
「……気持ちい、……リヴァイさんの」
「っ、あっ、……んっ」
「……暑、」
 エレンはそう呟くとリヴァイから一度身体を離し、がばっと着ていたスウェットを脱ぎ捨てる。密着していた身体が離れ、エレンに触れられたくて震える熱を持て余し、リヴァイは思わず甘えるように何度もエレンの名前を呼んだ。
「リヴァイさん……かわい、」
 エレンが裸の上半身を再びリヴァイの身体に押し付けると、すかさずリヴァイの腕がその背中を拘束した。
「……やめられたくなかった?」
「んっ、やめる、な……」
 甘えるようにリヴァイがエレンの胸にキスをする。それを見たエレンがペニスをびくりと痙攣させ、ふたりのペニスを再び握った。強く擦り付け合うように腰を動かすと、リヴァイの目尻に涙が溜まり始め、断続的な鼻にかかった声もどんどん高くなっていく。
「ゃ、あ、あっ、……っエレン、もう……で、る」
 いっぱい出して。エレンはやさしい声音でリヴァイを安心させ、くちびるを塞いだ。声を出すことで昇華していた快感が身体中に押し戻され、背筋がぞくぞくと震える。溺れそうになりながらエレンにしがみつくと、その熱く湿った肌の感触にまた興奮を煽られ、リヴァイはエレンに舌を絡めとられながら無言で射精した。ぶるぶると震えながら吐き出す間、エレンはすこし動きを弱め、リヴァイが脱力した様子を見て再び腰を動かし始める。吐き出された精液のせいで、さらに滑りがよくなった状態で敏感な性器を握り込まれ、リヴァイは思わず悲鳴のような声を上げた。力なく腕を突っ張らせて、エレンの身体を押し退けようとする。
「待、て、……だめっだ、ぁっん」
「ん、……ごめん、……お願い」
 エレンはだめだ、待てを繰り返すリヴァイをきつく抱き、一際強くふたりの性器を握り込んだ後、激しく腰を動かした。リヴァイが悲鳴のように喘ぐ中、苦しげに身体を震わせ、リヴァイの腹部に射精した。一拍置いて大きく息を吐くと、リヴァイの上に覆いかぶさって脱力する。
「はぁ……気持ちよかった……」
「馬鹿……」
「……ごめんなさい」
 エレンは布団が汚れるのも構わず、そのまま濡れてぐちゃぐちゃになったリヴァイを抱き寄せた。頰、額、耳、まぶたとキスの雨を降らせ、最後にちゅっとくちびるに触れる。くちびるが触れるたびに余韻のように身体が疼き、「ん、ん、」と小さな声が漏れてしまう。
「リヴァイさん……かわい〜……」
 へにゃと眉を下げて自分を見つめるエレンの目に、自分のとろとろに溶けた情けない表情が映り込みそうになり、リヴァイは慌ててエレンの裸の胸に顔を埋める。汗の匂いと、清潔なボディーソープの香り。自分の背中を撫でるエレンの手のひらはまだ熱く湿っていて、リヴァイは再び自分の下半身が熱く疼くのを感じる。押し当てられたエレンのものもまだ熱く、硬度を保っている。ひく、と自分の後ろ穴が震えたのがわかった。
「……リヴァイさん、今日、お花見しませんか」
 しかしエレンは明るい声でそう言って、下ろしていたスウェットのズボンと下着をぐいと持ち上げる。無理やり服の中に収められた性器が苦しそうに見えた。エレンは同様にリヴァイのパジャマも直してやり、ちゅっと頬にキスをする。
「昨日の帰り道、桜がきれいだったんです。多分今週末が満開かなって。何か買って駅の反対側の公園行きませんか?」
「……ああ」
「やった。じゃ、シャワー浴びに行きましょ」
 エレンはガバッと身体を起こし、リヴァイを抱き上げようとする。
「う、……相変わらず、見た目より重い」
「……鍛えてるんだろうが。頑張れ」
「よい、しょ」
 エレンが無事にリヴァイを持ち上げ、よろよろと歩き出す。濡れた服が気持ち悪い、とリヴァイが顔を顰めると、エレンはそれを見て笑った。花見か、悪くない。リヴァイはそう思う。もともと自分でも誘ってみようかと思っていたのだ。せっかく桜のたくさん咲いている場所に住んでいるのだから、ふたりで暮らし始めた最初の春を祝うのもいいだろう。
 その一方で、嬉しい気持ちの中に陰りがあるのを感じていた。本当は、あのまま挿れてほしかったのだ。自分の身体の中で直接、エレンの熱を感じたかった。思いきりエレンに溺れたいと思っていた。リヴァイはエレンにバレないよう、そっとため息を飲み込む。セックスのことばかり考えてしまう自分の浅ましさが嫌だった。
 どうしてこんなことになってしまったんだろう、とリヴァイは思う。好きで愛おしい相手と身体を重ねることは幸せであるはずなのに、こうやって身体が触れ合っているだけではどこか寂しい、物足りない。セックスを経験する前までは知らなかった感情だった。もっと求められたい、と思うのは贅沢である気がした。
「はい、到着」
 う〜重かった、と続けるエレンが愛おしい。こんなことを考える自分が情けなく感じられ、リヴァイはエレンに顔を見られないよう、ぎゅっとしがみついてくちびるを押し当てた