「失礼します。エルドです。兵長、ご相談とは……? は、私の恋愛の経験、ですか。そうですね、人並み程度かと。……兵長の、ご友人の、お話ですか。なるほど。……好きなお相手にお花を贈っているが、その反応が芳しくないと。そういうことですね? ……その方は、もらった側ですか。毎日花を贈られて、告白もされたけど、どうしたらいいのかわからないと。それで兵長の〈ご友人〉は、その告白にお返事をせず逃げてきてしまったと。なるほど。そうですね、そもそもそのお相手のことをどう思っているんでしょうね、〈ご友人〉は。……恋愛の経験がないからわからないと。ひとつ言えるのは、そのお花を受け取りつづけていることそのものが、相手の方へ少なからず好意を抱いている証拠かもしれないということです。その花をお部屋に生けてらっしゃるんですよね、〈ご友人〉は? ……そうですね、大事に花を生けて、その花を眺め、お相手のことを想うのであれば、それはすでに恋に近い感情を抱いていると言ってもいいのかもしれませんね。……想う、とは、ですか? そうですね、その場合の『おもう』は、ただ思い出すこととは違うと思います。相手のことを考えて、こう……胸のあたりが苦しくなるとか、なぜか泣きたくなるとか……、あ、私がそうやって泣いた訳ではありませんよ。ただ、泣きたくなるような、焦がれる気持ちには多少なりとも思い当たる経験があります。……そうですね、そのあたりです。心臓がきゅっと……そうですね、そんな感じです。相手の姿をいつも探してしまったり、そのくせ会えたら隠れてしまったり、……えっ、押し花? その花がしおれてしまうのがさみしくて、本に挟んでいらっしゃると。……はい。〈ご友人〉のお話ですよね。そうですね、私がその方にひとつアドバイスをするなら……」

そのとき、扉が控えめにノックされた。
「──兵長。エレンです」

「……ひとつ、アドバイスをするなら。この扉を開けて、今のその表情をそのまま相手の方に見せてあげれば、きっとうまくいくのではないかということです」

(はじめからすべてわかっていたエルド・ジンの話)